D言語(druntime)に初めて貢献した
tl;dr
mir-algorithm を触っていたら D 言語の object.destroy が nothrow じゃないことに気づきPR
nothrow でクラスオブジェクトを破棄できるようになる
初めてPR 送るなら,このリンク先を読もう
送ったPR: https://github.com/dlang/druntime/pull/2674
直した object.destroy のバグ
object.destroy はオブジェクトを渡すとすぐそのデストラクタを呼び,初期化する関数です.最近消えた delete 関数の代わりに使うことが一般的になりました.ちなみに nogc で動くので nothrow さえ保証できればD言語のクラスによる設計をC/C++並みに幅広い環境で使うことができます.
私の場合は grain2 というライブラリを作っていて,mir-algorithmの参照カウンタを使い,nogcかつnothrowに実装しているのですが,このコードが動かないことがわかりました.
nothrow unittest
{
class C
{
static int dtorCount = 0;
this() nothrow {}
~this() nothrow { dtorCount++; }
}
auto c = new C;
destroy(c); // こいつがnothrowじゃないのでコンパイルエラー
assert(C.dtorCount == 1);
}
普通は明示的にdestroyを呼ぶシーンは少ないと思います (リソース節約のために積極的に書いてもいいと思います).RAIIはdestroyは使わないし,これまで destroy がなければnothrowで通っていたので,気づく機会もなかったのかなと思います.
修正自体は object.d
内の rt_finalize
の前方宣言に nothrow
つけるだけで誰でもできるものでしたが,みなさんに色々手引してもらい申し訳なかったので,ここに書き留めて次回に活かします.
手元で修正・テスト
D言語はコンパイラ,ランタイム,標準ライブラリ他が別リポジトリで管理されていて環境構築がしんどいのですが, Digger を使うと楽です.
# あんまり新しいDMDだと digger がビルドできない,テストするDMDとは別なのでOK
source "$(curl -fsS --retry 3 https://dlang.org/install.sh | bash -s dmd-2.084.0 --activate)"
dub fetch digger
dub run digger -- checkout "stable" # デフォルトは master
dub run digger -- rebuild
# 今回は druntime だけ修正する. digger test は全部のリポジトリをテストするので長い
cd ./work/repo/druntime
make -f posix.mak -j style unittest-debug
当然,最後のディレクトリはgit cloneしたリポジトリなので,自分のforkしたリポジトリで適当にbranchを切ってテストや修正をcommit/pushするとPRが作れるようになります.全体のテストはCIに任せました.
PRを送る
とりあえず今回わかったのは,PR送る時は以下の3つに気をつけたい
破壊的変更でなければ master ではなく stable ブランチ
バグの場合は Bugzilla に登録.PRのタイトルに "Fix issue XXXX - title"
修正を確認 + 再発させないために regression test (unittestなど) を書く,Bugzilla id も忘れず
その他の細かいことはWikiの Starting as a Contributor を読みましょう.全部書いてあります,私は読んでいなかった...英語読める人は私の記事ではなくWikiを読んでください.
破壊的変更でなければ master ではなく stable ブランチ
何も読まずに普通にmasterに送ってしまった.stableにPRのターゲットを変更するとmasterのcommitが入ってしまうので, PR用のブランチで git rebase --onto stable master
としました.push済みの場合は,歴史改変なので git push --force
が必要.この辺もWikiに書いてあるので読みましょう.
バグの場合は bugzilla に登録.恐らく自動でchangelogに反映される
私は雑にPRしてしまいましたが,一度Bugzillaを見て報告されていないか見ましょう.なければ新たに再現コードを貼って登録するだけで良いようです.誰かが二度修正するのを防げますし,PRタイトルやcommit logで "Fix Issue XXXX" と残すと自動でchangelogに反映されて,管理者や開発者の皆さんの手間が減るそうです.
regression testを書く
簡単に unittest が書ける場合は修正したコードの近くに unittest を書きます.unittestでチェックできないことを確かめたい時は, test/
以下にいろいろな例があるのでそこに再現スクリプトを追加してMakefileにビルドを追記します.いずれにせよテストにはコメントでBugzillaのIDを書く必要があります.自明だと思っても二度と再発しないようにテストを書きましょう.独自のCIもあり面白い
appveyor: windows上でのテスト
circleci: linux (ubuntu18.04) 上でのテスト
buildkite: 主要なDUB上のパッケージをテスト(?)
DAutoTest: 独自のドキュメントビルドCI
autotestor: 独自のCI.全ツールをWin/Linux/Darwin/FreeBSDの32/64bit環境でテストしている,一番重い
workaround
今回の修正は stable ブランチにマージされるので,すぐ使えるようになると思いますが,古いD言語環境のためにmir-algorithmの作者に教えてもらった回避方法を紹介します.destroyは2つの挙動があり,D言語オブジェクトなら問題の rt_finalize
を C++ オブジェクトなら別の方法でデストラクタを呼びます.後者はすでに nothrow なのでデストラクタを持つ型はC++にしておいて中身はD言語にするのが回避策です.
nothrow unittest
{
extern (C++) class C
{
extern (D):
static int dtorCount = 0;
this() nothrow {}
~this() nothrow { dtorCount++; }
}
auto c = new C;
destroy(c); // destroy が C++ 用の処理に入るので nothrow
assert(C.dtorCount == 1);
}
さきほどの例だとこんな感じで回避できます
おわりに
思ったよりハードル低かったので,また懲りずにBugzilla眺めてPRしたいです